危機一髪
長女が誕生する時の話です。 私どもは、横浜の郊外の一戸建てに住んでいました。
自宅は駅から歩いて25分くらいの場所でした。 長男の場合には誕生予定日よりも1~2週間遅れて生まれましたので、長女の場合には誕生予定日の少し前に入院すれば、良いと考えていました。 しかし、予定日のかなり前に、自宅で急に妻が産気付いたのです。 私が妻に、大丈夫かと聞くと、「この前もなかなか生まれなかったので、朝まで我慢して、病院に行けばいいわよ」との事でした。 時計を見ると夜の2時頃でした。
ところが、時間が経過するにしたがって、ますます苦しい状況となってきました。
もしかして、自宅で生まれてしまうかもしれません。 そうなったら、大変です。 どうしたら良いか、分かりません。 そこで、タクシーを呼んで病院に行くこととしました。 電話帳で、タクシー会社に電話しましたが、どのタクシー会社に事情を話しても、もう帰り車だけで、運転手がいませんとのことでした。
困ってしまいました。 そうだ、大通りなら夜中でも車がたくさんと通っているから、流しのタクシーを拾えるかもしれない。 早速、自転車に乗って、大通りに行きました。 ところが、車といえば、自家用車とトラックばかりで、タクシーが走っていないのです。 どうしよう。時間はどんどん経過していきます。
とにかく、自宅に戻ろう、と引き返しました。
妻の状況はますます、今にも赤ん坊が生まれんばかりの苦しい状況となっていました。
うめき声が断続的に続いています。 「大変だ、どうしよう」
かかる異変に気が付いた、母が2階から降りてきて、「すぐに、救急車を呼びなさい」といいました。 「そうだ、何ですぐ気がつかなかったんだろう。」
早速、119番に電話しました。 次はそのやり取りです。
救急員。 どうしました?
私。 子どもが生まれそうなんです。 救急車で来てほしいんです。
救急員。 救急車は急病人のためなんだよ。 お産は病気じゃないんだよ。 タクシー呼んだらいいでしょう。
私。 そのタクシーが来てくれないんですよ。 議論している暇がないんですよ。
早く、来てくれないと、今にも生まれそうな状態なんです。 どうか、お願いですから、来てください。
救急員。 しょうがないなー。 それじゃ、行くことにしましょう。 場所は何処ですか?
私は、場所をすぐ教えましたが、新興建売住宅地なので、何処も同じような建物で、説明に苦労しました。
救急員。 サイレンを鳴らしていくから、通りに出て、合図してくださいよ。
私。 分かりました。
救急車だから数分で来るだろうと思い、すぐに通りに出ました。
しかし、サイレンの音がなかなか聞こえてきませんでした。
「遅いな、どうしたのかな? 妻は大丈夫かな? 心配だな?」
夜中なので、とても寒くなってきました。 震えながら、救急車が来るのを今か、今かと待ちました。 この時ばかりは時間がたつのがとても遅いように感じました。
かなりの時間がたって、やっと救急車のサイレンが聞こえてきました。
救われたと感じました。
担架をもって、救急員が自宅に入りましたが、今にも、自宅の玄関で生まれそうな状況になっていました。 何とか、我慢して、救急車に運び入れました。
しかし、車が動き出すとその振動で、救急車の中で今にも生まれそうでした。
「頑張れ。頑張れ。」 私は心の中で叫び続けました。 神様、どうか助けてください。
私は心から祈りました。
何とか、産婦人科の病院に着きました。 病院にあらかじめ、連絡していなかったので、看護婦さんは何事かとびっくりしていました。
看護婦さん。 どうなさったんですか?
私。 妻が産気付いて、今にも生まれそうなので救急車できたんです。
看護婦さん。 そうなら、こちらに電話してくれたら、車を迎えにやりましたのに。
でも、今時、横浜のこの辺で自動車を持っていないなんて珍しいわね。
とにかく、早く、分娩室に運びましょう。
私と看護婦さんは妻を両脇から抱えながら、2階の分娩室に運んで行きました。
そうしたら、何と1階から2階までの階段の途中で、妻が「今にも生まれる」と言いました。 走るようにして、2階の分娩室に急ぎました。
看護婦さん。 ここからは男性は控えてください。
私。 分かりました。
分娩室のドアが締まり、ベットに妻を横たえたと思われた、瞬間、オギャー、オギャーと言う声が聞こえました。
しばらくたって、看護婦さんが出てきました。
看護婦さん。 おめでとうございます。 女のお子さんです。
私。 ありがとうございます。 大変お世話を、おかけしました。
「助かった。」 私は心からそう、思いました。
ところが、長女の危機一髪はこれだけでは終わりませんでした。
生死を分ける本当の危機一髪がやってきたのです。
それは長女が3才になるか、ならないかの頃でした。
長女は自宅の近くの道路で三輪車に乗って遊んでいました。
ゆるやかな坂になった道路で三転車に乗って、上から下に行ったり来たりして遊んでいたのでした。
私は自宅にいたのですが、玄関を出た途端、大きな道路の向こうから大型トラック
がやって来るではありませんか。
次のような状況になっていたのです。
「危ない。」 私は叫びました。 しかし、坂で加速のついた三輪車は止まりません。
「神様、仏様。」 祈る間もありませんでした。 長女の乗った三輪車は走ってきた大型トラックの中に消えていきました。
私は目をつぶりました。 目を開けたら、何と長女の三輪車は大型トラックの前輪と後輪の間に運よく入り、トラックの下を通り抜けることができたのでした。
トラックの下から三輪車が現れたときには本当に夢かと思いました。 住宅地で、トラックがゆっくり走っていたので、結果的に助かったのかもしれません。 しかし、私にとっては全く、奇跡にしか思えませんでした。
もし、1秒でもタイミングが合っていなかったら大惨事になっていたのですから。
大型トラックは何事もなかったように静かに、通り過ぎていきました。 私は大型トラックの後ろを見つめながら、「助かった」と今度も心から思いました。
この事に気が付いた近所の人はいませんでした。
あたりは、前と同じおだやかで、暖かな空気が流れていました。 一戸建て住宅地は何事もなかったように静かでした。
その後、長女には危機一髪らしき事はお陰さまで起こりませんでした。
謝罪
2001年1月著述
「大変だよ。 大変な事が起きたよ。」
私が会社から帰ると妻と母がと異口同音に言いました。
私。 一体何が起きたの。
母。 近くの農家の人が怒って、怒鳴り込んできたんだよ。
お宅の子どもが畑を荒らしたと言うんだよ。
明日、学校にも言うし、新聞社にも言いつけると言っていたよ。
とにかく、実際どうなっているか、早く、畑を見に行った方がいいよ。
私の息子、長男は小学校の1年にあがったばかりでした。 私の長男と友達の二人でジャガイモ畑を荒らしたと言うのでした。 それにしても、怒り方が尋常でないなと内心思いました。早速、妻と二人で、現場に急ぎかけつけました。
すでに、夜になっていました。
ジャガイモ畑を見てびっくりしました。 何平方メートルか分かりませんが、かなりの広さの畑ですが、すっかりジャガイモを刈り取って、小学生の背の高さ以上のジャガイモのピラミッドがそびえ立っているではありませんか。ジャガイモはまだ未成熟の小さいものでした。 これから農家の人が丹精込めて成熟させる段階でした。
ジャガイモのピラミッドの周りはすっかりきれいに何も無い状態になっていました。
子どもとしてはエジプトのピラミッドを真似したのかもしれません。
しかし、この光景を見て、農家の人が怒り心頭にくるのも無理からぬことと思いました。
早速、家に帰り母に報告するとともに、今後どうしようかと相談しました。 友達に誘われたのじゃないのとの声もありましたが、長男はその件については黙して語りません。ただ、悪いことをしたことは分かっているので、とにかく、妻と長男と私の3人で謝りに行くことにしました。 妻にはお菓子を買ってこさせました。
私は、損害賠償金として、あのジャガイモが成熟して、店で売っていたら、これ位かなと試算して、現金を封筒に入れて用意しました。
3人で農家に出向きましたが、その農家は豪農で玄関から母屋までかなりありました。 私は、「ごめん下さい」と言いましたが、中から返事がありません。 そこで、大きな声で再度、戸をノックしながら、「ごめん下さい」と言いました。
「こんな夜分にどなたですか?」と中から返事がありました。
私。 畑を荒らした件で誠に申し訳なく、謝りに参りました。
農家の奥様らしき人が主人を呼びに行ったようでした。 やがて、かなり年配の主人が現れて、すぐさま言いました。
主人。 畑を荒らしたのはおまえらか? 親のしつけはどうなっているんだ?
私。 誠に申し訳もございません。
主人。 謝れば、済むもんじゃないだろう。 よくも、あんなふうに、きれいに刈
り取ったもんだな?農家の苦労が分かっているのか?
明日、小学校の校長先生に言うと同時に、新聞社にも知った人がいるから
写真に取って、報道してもらうつもりだ。
私。 誠に、返す言葉もありません。
私は、これ以上、何を言っても、弁解しても許してもらえないと観念しました。
とっさに私は農家の庭先で地べたに土下座しました。
私。 本当に申し訳ございません。
私は心から詫びて謝りました。 すると、妻も引き続いて、土下座し、言いました。
妻。 申し訳ございません。 どうか、お許し下さい。
すると長男も土下座し、謝りました
月は光光と輝き、三人のひれ伏す地面を照らしていました。 あたりは虫の音だけが聞こえる静寂さでした。 農家の庭先で、農家の主人の前で3人が土下座する光景はまるで現代から江戸時代にタイムスリップしたかのようでした。
私たち3人はいつまでも頭を上げませんでした。
すると、何と、主人は次のように言ったのでした。
主人。 分かった。 分かった。 もう、良い。 頭を上げなさい。
私。 許してもらえるまで、頭を上げられません。
主人。 分かった。 分かった。許すから、もう良いから立ちなさい。
私たちはやっと、立ち上がりました。
主人は長男に言いました。
主人。 こんな立派な両親がいるのだから、これからは悪いことはしてはいけ
ないよ。
長男は黙って、うなずきました。
私。 謝って、済むものではありません。 大変、失礼とは存じますが、
お詫びの印に、お菓子と損害賠償金をお持ちしました。足らなければ、
何なりとお申しつけ下さい。
主人。 もう、分かったから、そんなものはいらない。
私。 それでは、私の気がすみません。
主人。 それじゃ、お菓子だけ、いただいておこう。 もう、それで、良いから。
学校にも言わないし、新聞社にも言わないから、安心していいよ。
私たち、3人は農家の主人の温情に触れて、涙が止まりませんでした。
An apology
「A serious matter. A serious matter had happened. 」
My wife and mother cried out in alarm with one voice when I came to my home.
I: What happened ?
Mother: One farmer near here stormed into my home in a rage.
He said 「Your child ruined my fields. I will report the school and a newspaper
office. tomorrow.」
Anyway, You had better watch the fields early to know what happened in the
fields.
My son was a first year student of a primary school. I heard that my son ruined potato
fields. But I thought his anger was big. I and wife went to the fields in a harry.
It was already night.
I was astonished at the potato fields. It’s field was very wide. A potato fields were reaped fully and a pyramid of potatoes rose over height of a primary school student..
potatoes were small and not mature. Surroundings of a pyramid of potatoes were clean.
Children imitated a pyramid of Egypt.
But I thought to see this, that a farmer’ angry was a matter of course.
We came to our home at ounce, reported my mother and consulted each other.
It was said that my son may be tempted by his friend. But my son said nothing about it.
Bu he knew that he did wrong. So, we decided to apologize with three members, that is
wife ,my son and I..
My wife bought cakes. I prepared money in an envelope as compensation for the damage.
The farmer was rich. A house of the farmer was far from the gate and was big.
I said 「Hello」. There was no answer. So, I said again loudly, with knocking at the door「Hello」.
There was an answer in the house. 「Who are you in this night ? 」
I: I came to apologize ruining your fields.
A women like wife called to his husband . After a while, an old master appeared and said immediately.
Master: did you ruin fields ? How did you do home discipline ?
I: I am very sorry.
Master: It is not matter to apologize only. How did you reap fields clearly.
Did you know labor of farmer ?
I will say to a principle of primary school tomorrow and at same time
I will report newspaper office to take a photograph.
I:I have no answer to reply.
I gave up to be forgiven to reply. I thought there was no use to say something.
At ounce, I kneeled down on the ground of the farmer’s garden.
I: I am very, very sorry.
I apologized sincerely. After that, my wife kneeled down on the ground.
Wife: I am sorry. Please forgive us.
After that, my son kneeled down on the ground, too.
The moon shined brightly and lighted to the ground where three persons kneeled down.
There was silent around here. We heard only sounds of insects.
The sight that we kneeled down on the ground of the garden, was like in Edo era in Japan. I thought we backed to past ages.
We did not rise our heads long time.
After that, the master said to us.
Master: I see. I see. All right. Please rise your head.
I: I can’t rise my head if you don’t forgive us.
Master: I see. I understand. As I forgive you, please stand up now.
We stood up at last. The master said to my son.
Master: Don’t do wrong, any more as you have a good parents.
My son nodded silently.
I: It is not matter to apologize only. I have cake and money of compensation to apologize. Please take this. If you think it is not full, please offer say so.
Master: Now, I understand. I don’t take this one.
I: I don’t agree to it. I am not satisfied not to offer anything.
Master: So, I will take cakes only. It’s good any more.
I will not say to the school and a newspaper office. Please take it easy.
We could not stop our tears feeling a warm heart of the master.
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