俳優への夢
2003年4月
ここに紹介しますのは、俳優への夢についての話です。
俳優になるのは並大抵ではありません。ほんの一握りの人しか、大成しないのですから。
俳優になって、生活を立てるのは容易なことではありません。
しかし、それでも俳優になりたい人はたくさんいるのです。
私は今、コンピューターのシステム開発の仕事をしているのですが、私のマネージャーは長年の間、コンピューター運営の仕事をしておりました。
どちらかといえば地味で誠実な彼の仕事振りから見て、彼が実は派手な芸能界での俳優になりたい夢を持っているとは少しも知るよしもありませんでした。
それが、意外なことからそれがわかったのでした。
2003年2月のある日、友人からハイキングに行かないかとの誘いをうけて、私はそれを承知したのでした。
場所は中央線藤野駅の近くの生藤山でした。
4人の予定でのハイキングでしたが、一人の都合が付かなくなって、結局3人での登山となりました。
一人は男性で、一人は女性です。私を含めて、かつて、同じ職場で働いていたメンバー同志です。
運動不足の私にとっては、久しぶりのハイキングでもあり、かなりきついものでした。
しかし、頂上に登って、回りの素晴らしい景色を見ると本当に来てよかったと思ったのでした。
遠くには富士山やゴルフ場などが見られたのでした。
私達は頂上で、昼食をとることにしたのでした。
私の今の職場のことが話題になった時、彼女は以前私のマネージャーの部下だったというのでした。
私:私はまだ、間もないのでマネージャーのことを良く知らないのだけれど、どんな人なの?
彼女:彼は面白い経歴の人なのよ。
私:そう。一体どんな。
彼女:彼は北海道の出身の人なの。高校を卒業する時には地元の税務署に勤務することが内定していたの。
でも、彼は俳優になる夢を捨て切れずに、その内定していた職業につかずに、東京に出てきたの。
私:それで?
彼女:それで、池袋の俳優養成所に行ったのだけれど、それでは生活が出来ないので、新聞配達を始めたのですって。 朝晩の新聞配達と昼は集金の仕事をしていたの。
でもいつまでも、新聞配達というわけにも行かないので、新聞配達の奨学金で夜は鎌田の電子専門学校に通い始めたの。
そうなってしまうと、忙しくなって、俳優修行できなくなってしまったの。
それで、電子専門学校を卒業すると今のコンピューターの職場につくことになったの。
私:それじゃ、東京に出てきても何にもならないじゃない。
彼女:でも、彼は俳優や映画で活躍する夢を捨てたわけじゃないのよ。
私:どういうこと?
彼女:彼は宴会の時に司会や演技で喝采をはくしているのよ。
そして、宝くじを買い続けていて、もし1等に当選したら、それを資金に映画をとりたいのですって。
私はその時は女優に採用してねって、お願いしているの。
私:一度、私も彼の演技を見てみたいね。
私は彼の苦学力行の話を聞いて、感動したのでした。
次の日、私はマネージャーにその話について聞いてみたのでした。
私:税務署に長らく勤めていたら、今では税理士の資格を取れていたのではないですか。
後悔していませんか?
マネージャー:そんな話,いったい誰から聞いたんですか? 私は後悔をしていませんよ。
私:どうしてですか。
マネージャー:高校を卒業する時は回りの人が就職するので、自分もどこかに就職しなければと試験を受けたのですよ。 試験を受ける時には自分の気持ちがはっきりしていなかったのですよ。
私:では今の仕事で定年になったら、どうなさるお積もりですか?
マネージャー:映画のエキストラになろうと思うのですよ。
私:そうですか。私は私の先輩が今、 定年後にエキストラになっている人を知っていますよ。
1日出演すると5千円になるそうですよ。但し、交通費は出ないのですって。
彼は収入よりも有名な俳優に身近に接することがうれしいと言っています。
先輩が言うにはエキストラにも段階があるそうですよ。監督から何も言われないエキストラと監督から演技指導をうけるエキストラがあるのですって。
先輩は監督から指示をうけるエキストラで、悦に入っていますよ。
中にはエキストラから監督に抜擢されて、本当の俳優になる人もいるんですって。
マネージャー:私もそうなればいいんですけれど。
その後、2003年4月,担当部長の送別会で遂に私はマネージャーの演技の一端を垣間見ることが出来たのでした。
彼は宴会の司会役でした。
宴たけなわの頃、マネージャーは金色の背広姿で現れました。大きな蝶ネクタイをしています。
昼とは別人のような派手ないでたちであります。
マネージャー:本日はお忙しい中、ようこそ、当ミュージックホールにお越しくださいました。
有り難うございます。有り難うございます。 どうぞ、ゆっくりお過ごし下さいませ。
送別会はミュージックホールで行われたのではありません。目黒の喫茶店兼パブを貸し切って、宴会が行われたのです。
そこで、彼はある都内のミュージックホールの案内人に成りきって演技しているのでした。
マネージャー:お客様。本日は入れ替え無しの大公開でございます。但し、見るだけにして、決して女性にお手を触れることのないようにお願いいたします。
ここで歌を一曲披露したいと存じます。
と言って,彼の得意の持ち歌を披露したのでした。
彼はこのほかに股旅物の持ちネタがあるとのことでした。
この話を弟にしたところ、彼はその後、予想外の行動に出たのでした。
彼は長らく勤めていた会社を早期退職して、雇用保険をもらった後も就職せずにおりました。
その間、パソコンの専門学校に通っていたのでした。
2年間、パソコンを習ったのですが、彼はそれを次の職場に活かすこともなく、ただ趣味としてやっていたのでした。
彼は暇を持て余し、新聞の広告を見て、芸能プロダクションに応募したのでした。
そこではエキストラの出演を斡旋しているのでした。
弟:兄さん、新聞を見て、応募したんだけれど、書類審査に受かり、その後の面接に受かったんだよ。
書類に保護者欄があったので、「中年の私にも保護者が必要ですか?」とわざと聞いたんだよ。
相手の人に「父親はおじいさんでもう、とっくに亡くなっているんですけど」と言ったんだよ。
そしたら、「面白い人ですね」って言われたよ。
私:そう。それで、それは無料なの?
弟:いや。入会金を含めて、約8万円支払ったよ。年会費だよ。
私:それじゃ、誰でも受かるのじゃないの?
プロダクションはお金目当てに募集しているのじゃないの。
一体何回、エキストラに出たら元が取れるのかね。
弟:そんなこと、どうでもいいよ。どうせ、趣味でやるんだから。
パソコンスクールに比べたら、安いものさ。
こんど、私のブロマイドを作るために、プロのカメラマンに写真を撮ってもらえるんだよ。
私:だまされないようにしなさいよ。
でも、今後どうなるか教えてね。
弟:いいとも。
その後、弟はプロのカメラマンに写真を撮ってもらったのでした。
弟:私が芸能プロダクションでブロマイド写真をとられるのを待っていたら、後から小さな子供とその父親が現れたのだよ。 彼は私も子役の父親と思ったらしいのだよ。
ところが中年の私が写真を取られるのを知ってとても驚いていたよ。
今度から、俳優の訓練コースが始まるんだよ。
弟の顔は期待に膨らんでいました。
私は小学生の学芸会で、シンデレラの王子役をしたことがあります。
又、後年、会社に入って、宴会で黒いサングラスを掛けて、ギャングのボスの役をやったことがあります。いづれも、観客のドヨメキに興奮したことを忘れることが出来ません。
役者は三日やったら、止められないと言います。私はそのことに十分理解ができるのです。
果たして、マネージャーと弟の俳優への夢は今後どのような展開になっていくのでしょうか?
シェイクスピアは「人生はドラマだ」と言っています。
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