患者への付き添い
2004年3月
私の母(96歳)は胃の調子が悪くなってきました。
母:食欲がわかず、食べたくないのだよ。
私:それでは、体力が落ちてしまうよ。
私は食事を補うために近くの店にドリンク剤を買いに行ったのでした。
しかし、母の様子は一向に良くなりませんでした。
朝、弟が、母の付き添いで、近くの病院に行ったのでした。
私が、用事を済ませて、午後3時頃に自宅に帰った時には母はベットに寝ていました。
私:容態はどうなの?
母:ああ、まあ良くなった感じだよ。
私:そう、そんなら良いけど。
でも、私が見たところ、母の様子は決して良い感じではありませんでした。
夕方になって、電話が鳴りました。
電話の相手は近くの病院の先生からでした。
医師:その後、お母さんのご様子はいかがですか?
私:今は小康状態で、ベッドに寝ていますけれど。
医師:そうですか。 具合が悪ければ、点滴をした方が良いのですが?
私:ぜひ、お願いいたします。
医師:点滴には2時間位かかりますので、すぐ来て下さい。
私:分かりました。
時間を見ると午後の5時半頃でした。
私は早速、母を起こしました。
私:お母さん。先生が点滴をしてくださいますよ。早く、行きましょう。
母:そうかい。
しかし、着替えとか、帽子が見つからなかったりして、支度に手間どってしまいました。
母:気持ちが悪くて、歩けないよ。
母親はよろよろしていました。
私は、車椅子を用意して、近くの病院へ母を連れていったのでした。
待合室に入って、すぐに受付の人に言いました。
私:先生から電話があって、点滴をしていただけるとのことで、参りました。
先生が診察室から出てこられ、母は点滴を受けることが出来たのでした。
点滴の間、私は病院の待合室で待っていることになったのでした。
待合室には次から次へと患者の人が入れ替わりに入って来たのでした。
その中に目の不自由そうな母親とその娘がいました。
母親が患者で、娘が付き添いの様でした。
母親はかなり太っていて、黒いガウンを着ていました。
娘は小学生の様に見えました。
医師:次の患者さん、どうぞ。
母と娘は診察室に入っていきました。
診察が終わって、母と娘は診察室から出て来たのですが、娘は目が見えない母親の手をとって、
待合室の椅子に誘導したのでした。
背もたれのない椅子だったので、私は言いました。
私:あそこにソファがあるからどうですか?
娘は首をふって、『いいです』と言ったのでした。
母親と娘の会話は仲の良い友達の様でした。
暗いイメージは少しもありませんでした。 その子はとても明るい感じでした。
しばらくして、受付の人が言いました。
受付の人:診察代はxx円です。
娘は母親に代って、財布を出して、支払ったのでした。
そして、母親の手を取って、病院を出ていったのでした。
待合室の中年の女性:あの子は本当に偉いねえ。いつも、ああやって、付き添ってくるんだよ。
次に、かなり年をとった感じでしたが、上品な女性が診察室から出て来ました。
一人では歩くのがかなり困難で一歩一歩歩くのに相当時間がかかっていました。
ですから、診察室から受付まで、わずかな距離ですが、かなり大変でした。
私は思い余って、声を掛けました。
私:私は母を車椅子で連れて来たの者です。 時間がまだ、かなりかかりますので、
よろしければ、車椅子でお送りさせていただきますが。
足の不自由な女性:いいえ、結構でございます。ご親切、どうも有り難うございます。
そうこうするうちに、若くチャーミングな女性が入って来ました。
しばらくすると、気のせいか、私の喉が痛くなった感じでした。
私は院内感染したのでしょうか?
その女性の診察が終わると彼女は受付の人に言いました。
彼女:私は風邪が治ったと思うと又、風邪をひいてしまうのですよ。
一生、風邪を引き続けてしまうのでしょうか?
どうしてなのでしょうか?
受付の人:睡眠を十分とっていますか?
彼女:はい、とっています。 一日、8時間寝ていますよ。
受付の人:そうですか? では会社で、風邪がはやっているのではないですか?
彼女:もう、風邪ははやっていません。
受付の人:それではあなたの抵抗力が弱いのですね。
栄養を摂らなくてはいけませんよ。
ダイエットでもしているのでしょうか、確かに、その女性は小柄で大変やせていました。
診察室の大時計が午後の7時になると大きな音で時を知らせました。
『ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン』
それまで、私は英会話の新書を読んでいました。
私は『点滴は午後8時位までかかる』と思っていました。
しかし、7時を少しすぎた頃に先生が診察室から出てこられました。
先生:点滴が終了しました。
私:有り難うございました。
私は診察室に入って、母に衣服を着せたのでした。
私は先生に言いました。
私:さっき見えた患者さんのお子さんにはとても感心しました。
あの年で、本当に偉いですね。
医師:あの母親は全く目が見えないので、一人では生活出来ないのですよ。
私:そうですか。
私はあの子が、付き添いだけでなく、家庭でもいろいろと母親の面倒をみているのだろうと思って、不憫に思ったのでした。
彼女は大人になっても、母親の面倒をみ続けなくてはならないだろう。
これも彼女に課せられた運命なのだろうか?
それにしても、あの子はそんなことを少しも感じさせないで、
診察室の待合室で母親と本当に楽しそうに会話していたのでした。
『悲運な運命に楽しく、立ち向かう』
私はあの子の愛情の深さに感動したのでした。
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